公益社団法人 上越青年会議所 総務委員会が行います 「JC PRIDE 発信事業」は、各分野のリーダーと保坂理事長が対談(鼎談)を行う企画です。
対談内容は、上越タイムス誌面に掲載させていただき、幅広く地域の方に向けてJC活動を発信していこうとする事業です。
4回目の今回は、「越後・謙信SAKEまつり」の企画運営委員として携わっておられ清酒「雪中梅」で知られる 株式会社丸山酒造場の専務、丸山健一郎氏をお迎えしお話をさせていただきました。
『“酒”イベントの その先へ』と題して酒イベントに携わる者同士が意見を交わしました。
上越タイムス7月20日記事
記事のつづき
新聞掲載の続き
【集客について】
保坂 比較するわけではないのですが、直近の集客はどのくらいですか。
丸山 前回の「越後・謙信SAKEまつり2012」は2日間で7万人でした。
保坂 昨年は、オクトーバーフェスト以外にも近隣会場でイベントを行いましたが、オクトーバーフェスト単体で考えると4日間で2万人ですから、「SAKEまつり」はとてもすごいですよね。オクトーバー会場は席数も限られているために席に座れなくて溢れていた方もいらっしゃいました。そう考えると2日間で7万人の来場者はすごいと思います。お酒を飲むイベントであることと本町商店街という場所や本町周辺の駐車場規模を考えれば、電車やバスなどの公共交通機関との相乗効果や、既存商店への相乗効果もあったのだと思います。
【地域への想い】
保坂 祭りへの想い、地域に対する想い、または地域のいいところを発信したいなど、いろいろな想いがお有りになると思いますが、祭りに情熱を向けた結果、祭りに携わりながら地域への想いが芽生えたのでしょうか。それとも地域を活性化させたいという想いを持って上越にお帰りになられたのでしょうか。
丸山 …そうですね。どちらかといえば、「SAKEまつり」の企画・運営に携わることで、地域への想いが特に強くなったと思います。毎年、イベントの企画段階や当日運営の中で、反省点や要検討箇所はかならず出てきます。ゴミやトイレ対策など具体的な問題や、何処へ向けてどういう切り口で広報活動を展開するのかというような戦略的な部分、そもそも上越妙高地域の特色や強味は何なのかといった見直しや、地域をより良くしていくためにはどんな取り組みが必要なのかといった将来展望と課題など、考えさせられることは多いです。直接、イベントの役に立つことも立たないこともありますが、いろいろ考えながら経験を積み、大勢の方と地域にとってよりよい機会になるように、毎回「SAKEまつり」のブラッシュアップを心掛けています。
近年の取り組みでは、食ブースの地域色を強めたり、遠方からのお客様の為に宿泊パックの造成をお願いしたり、JRさんとバウチャー券の対象エリア拡大なども検討しています。会場内のトイレを増設したり、インフォメーションや宅配サービス、クローク、ベビールームを設けるなど、限られた予算の中ではありますが、少しずつ改善を重ねて来ました。
イベントを少し離れたところで言えば、地元で酒造業に携わることで、上越妙高地域の潜在的な可能性を感じるようになりました。清酒の分野でいえば、「五百万石」など酒米の主産地であり同時に「頸城杜氏」の本場でもあります。酒米栽培と清酒製造という高度な技術と一層の向上を目指す姿勢とが根付いています。そうして日照時間が長く稲作に適した夏、雪とほどほどの低温で酒造りに適した冬と気候条件にも恵まれています。そうした土地にそれぞれの地元で愛飲される16の酒蔵があり、手を掛けた酒の仕込みを続けています。上越妙高地域の清酒は「新潟清酒」という大きなブランドに比べると残念ながらまだ知名度があまり高くありませんが、世界に誇れる醸造技術で生みだされた逸品ぞろいです。無名であることは強味にもなりえます。これから首都圏や関西圏や中京圏など国内はもちろん、海外へも出ていける可能性と力を秘めた地域です。いずれ、「JOETSU-MYOKO(上越妙高)」や「KUBIKINO(頸城野)」が、世界屈指の銘醸地としてボルドーやナパ、スペイサイドやアイラ、紹興や芽台と並び称されるくらいになればよいと思います。
また、2011平成23年には上越発酵食品研究会という組織が発足し「発酵のまち上越」という惹句でPRが展開されています。上越には「浮き糀味噌」や「かんずり」や「鱈の子の糀漬け」のような独自の発酵食の文化があり,応用微生物学の分野で世界的な業績をあげた坂口謹一郎博士や近代的な清酒製造技術を開発した江田鎌治郎、日本のワイン葡萄の父といわれマスカットベーリーAの開発者としても著名な川上善兵衛などの人物を輩出しています。地元の方々がそうした発酵文化の伝統が息づく地域であることを見直し、世界へ向けて発信するだけの価値があるのだということを再認識する機会になるという点からも、これは素晴らしい取り組みだと思います。「発酵」をキーワードにした面白い発想や商品、仕掛けが増えると楽しくなりそうだと期待をしています。
保坂 上越はそれなりに満たされている部分があると思うのです。人口も極端に少なくないですし、観光地もそれなりにあって、経済もそれなりに成り立っていて安堵している部分もあるのかもしれませんね。温厚な土地柄や人柄もあるかもしれません。僕も9年上越を離れていて、上越の人間的な温かさと穏やかさを感じました。地域に対しては、自分の興味のあるものに情熱を燃やすのがいいと思っています。特にまつりに情熱を燃やすと地域の活性化に直結します。人が活発になって、地域経済が活性化されて、外から人が来やすくなって、人口が増えてというサイクルで考えると最後は人だと思うのです。青年会議所に入会するメンバーも最初から地域を良くしたいという理由で入ってくる人は、ほとんどいません。そこで活動をしながら年を重ねるごとに、地域のことを考えられるようになります。そうすることで、自分の会社に活かしたり、社会的な活動に活かすことができるようになると感じます。
丸山 新潟県酒造組合高田支部の青年部として「新星会高田部会」という組織があり、私を含め10名の若手蔵元が所属しているのですが、「SAKEまつり」を通じて本当によい勉強をさせてもらっている、地域に育ててもらっていると感じます。
「継続は力なり」と言いますが、イベントでも続けること、実績を積んでいくことが本当に大事だと感じます。「SAKEまつり」も回数を重ねることで、会場である高田本町商店街の方々が年々イベント当日にも店を開けて下さるようになりました。高田本町まちづくり株式会社が発足し、2年前からは事務局の一翼を担って下さっています。「SAKEまつり」は、もともと中心市街地活性化の取り組みとしてスタートした側面もありますので、高田本町商店街の為のイベントでもあるという意識が少しずつ浸透し共有されてきたと感じます。高田本町周辺への経済波及効果や普段の集客に結びつくようなアイディアを練ったり具体的な施策を試したりできるとよいと思います。中長期的な方向付けと予算面での裏付けがきちんと済んで、専任担当者の確保など事務局体制が安定すれば、「SAKEまつり」まだまだ大きく充実したまつりに育つ見込みがあります。保坂さんがおっしゃる通り、人の配置と育成は最重要の一点ですね。一方で食のイベントスペースとして高田本町商店街を眺めた時に、致命的な問題の一つは、やはりトイレが少ないことだと思います。今後の改善を期待したいですね。
行政からは上越市産業振興課を核に、中心市街地活性化推進室、観光振興課、文化振興課、上越観光コンベンション協会、妙高市観光商工課、新潟県上越地域振興局をはじめ様々な部署の方にお力添えを戴いています。市の職員になっていた高校の同級生とイベント当日の運営業務の作業現場で十数年ぶりに再会したこともあります。
保坂 私は職業柄、行政の方との関わりは元々ありましたが、青年会議所に入会して地域活動に携わったことで、そのつながりも一層深まっているように感じています。上越市としても開府400年や新幹線開業など大きなイベントを控えて、今本当に大変だと思います。SAKEまつりも産業振興課の皆さんの協力を得ていると思いますが、オクトーバーフェストに関しても観光振興課の皆さん、都市整備課の皆さんに協力していただいて成り立っています。
【今後の展望について】
丸山 こちらの頭が上がらない位に本当に一所懸命に取り組んで下さる方も多く、行政の方々には助けられお世話になっています。行政側の担当者が数年ごとに交代する現在の状況は、まつりをより良いものに育てていくという点からみれば、ノウハウ蓄積などの面でマイナス要素も大きいのですが、申し送りや次年度へ向けての改善計画を策定することなどで担当者の異動によるタイムロスや方針のブレを減らす工夫も生まれて来ています。そして行政の要路各所に「SAKEまつり」経験者が配置されていると考えれば、むしろ心強いと思える部分もあります。
ところで、「上越オクトーバーフェスト」の今後の展望も教えてください。
保坂 上越といえば、お酒を楽しんでもらう場所であることをアピールしていきたいです。春は桜を見ながら一杯、夏はビール、秋は日本酒、冬は雪と温泉を見ながら、とPRしています。単独のイベントではなく、1年間繋がるようにひとつのイメージを市外の方にアピールできたらいいなと感じています。そのようにお互いの相乗効果を重要に考えています。
丸山 上越は、楽しめて、温泉があって、食べ物とお酒が美味しいところだよねというイメージが広がり定着すれば嬉しいですよね。新潟県酒造組合の方でも旅館組合さんとの共同企画で「新潟地酒の宿プロジェクト」が動き出しておりまして、蔵元と旅館が手を組んでお酒に合う料理を提供したり、「新潟清酒達人検定」の達人資格を取得したお酒の説明ができるスタッフを各旅館に配置していただいたりしております。現在は旅館だけですが、今後は飲食店とも共同企画を進めてゆく見通しです。
【県外からの集客について】
丸山 来(2014平成26)年に「高田開府400年」と「北陸新幹線開業」というふたつの大きな節目のイベントを控えているので、今がチャンスかなと思っています。現在は新潟市や長岡市など県内、越後湯沢経由で上越新幹線を利用される首都圏や関西圏、北陸方面からのお客様を開拓すべく、対外的なPRを考えています。今年は広報チームも組織され、将来に向けた戦略的なパブリシティも模索中です。とりあえずは、隣県の長野、富山それから北陸新幹線沿線の金沢からの集客を増やすことが一つの目標ですね。北陸新幹線開業までに「あっ!それ食べたい」「ここへ行きたい」「あれ買いたい」「それが見たい」というような魅力のあるコンテンツを増やして、将来的には「「SAKEまつり」で上越妙高地域へ行くけれど、今回はどれ(どこ)をメインに回ろうかな」とお客様が迷うような状況が出来すると楽しいと思います。
保坂 オクトーバーでは、暑い最中というのもあり、アンケートの回収はなかなか難しい部分もあります。ただアンケートの回答のうち約20%が県外です。アンケートに答えてくれる方は富山、金沢、福井の北陸の方々からの回答が目立つので北陸の方々が特に多いような印象を持っています。特に県外の方からの意見は厳しく、開催日だけでも早く教えて欲しい、いろいろな情報をホームページにアップするのが遅いなど、相当な期待を頂いているのは感じています。今年は昨年の反省を生かしてホームページを早めに開設しました。
丸山 「SAKEまつり」では、関東圏と長野県からの来場者が特に多く、中京圏がそれに続きます。逆に北陸地方からの集客は今一つ振るわずに伸び悩んでします。
保坂 関東圏の方々は、SAKEまつりを目当てに来越されるのですか。
丸山 それはわかりませんが、当日の高田駅周辺の宿泊施設はほぼ満室になります。今年も5月くらいからすでに宿泊パックがあるのかどうかという問い合わせがあり、県外の方の期待を感じています。逆にこちらの仕掛けが後手に回っている状況です。旅行会社にツアーを組んでもらう場合には、半年前から動く必要があるのですよね。
保坂 それは、私も思っていました。半年前だと詳細が決まりきってない部分もありますよね。
丸山 「SAKEまつり」は10月末の開催ですから、4月中旬のお花見の頃から旅行会社に案内を出したり営業をかけたりしなければならないのですが、年度始めでもあり行政を含めた関係団体や組織の人事異動や改編があり十分には動けません。加えて、私ども酒造業者は10月-3月の約半年間、冬場が仕込みの最盛期ですので、なかなか身動きが取れない上に、毎年3月には恒例の「新潟淡麗にいがた酒の陣」という一大イベントがあるので、動ける人間もそちらの準備に追われてしまい、なかなか「SAKEまつり」の詳細を煮詰めるような時間的・人的な余裕がとれないのが現状です。通年で継続的に取り組める、まつりの核を作るシステムやノウハウを確立する必要があると感じています。
【そこからつなげていく】
保坂 先日、市長に挨拶に行きました。観光振興課さんから協力いただいていますし、乾杯のご発声をお願いしてきました。そこで観光振興課さんとも話しましたが、駅からシャトルバスを出すためにも半年前に条件を整えなければならなくて、交通機関の手配などもポイントになりますよね。
丸山 上越妙高地域は広いので、公共交通機関との連携やシャトルバスの運行などは重要ですね。特にお酒のイベントですから、タクシーや代行サービスの利用と飲酒運転禁止の呼びかけには、毎年力を注いでいます。
「SAKEまつり」の企画運営部会では、期間面とエリア面での拡大が近年検討されています。エリアの寺町・仲町・大町への拡大や、上越妙高地域内でのイベントをつないで「SAKEまつり月間」や「SAKEまつり週間」を実施しようというものです。やや中期的な目標ではありますが、イベント以外でも観光地や温泉地へ足を伸ばしてもらうような仕掛けやオプショナルツアーが組めたら面白いと思います。これまでのところ障害があり実現していませんが、糸魚川地域との連携も模索中です。上越地方全域として北陸新幹線やえちごトキめき鉄道を活かした企画展開ができれば選択肢も増え「SAKEまつり」と上越地方の楽しみ方も広がるだろうと思います。
上越地域をどうやって県外海外へPRするのか、というようなことを考えていると、「上越らしさ」の根を探すような羽目になり、地域が独自性を保つことの重要さに思い至り、結局は地元の人が地域に誇りと愛着を持って、心楽しく元気に暮らしていることが何よりも重要なのだと気づきます。盛んに「グローバリズム」が喧伝される時勢だからこそ、逆にきちんと「地域主義」に立脚して独自色を打ち出して行かないと危ういと思います。
「SAKEまつり」を中心とする一連の企画を契機に、地元に暮らす方の一人一人が上越地方の特色や面白さを知って楽しんだり、誇りを持って他地域の人に語れるような、充実したとりくみになってゆけばよいと思います。
保坂 今年のオクトーバーフェストの実施責任者には、合併後13町村全地域のいいところを紹介するような仕掛け作りを託しました。その一環で広域上越市のいいところを紹介するPV(プロモーションビデオ)を作成し、上越のいいところを魅せていくようにしました。本当は素晴らしいのになかなか認知度が高まらない魅力を、もっと知ってもらう努力をしていかなければならないのだと感じています。
丸山 すごくよい仕掛けだと思います。東京一極集中の影響かも知れませんし世代的な問題なのかもしれませんが、上越市に住んでいて、地域のよいところや歴史や文化があまり共有されていないように感じます。住んでいる人は「地元には面白いものが何もない」と思っていて、かえって地域外から来た人の方が「面白いものが色々ある」と思っていたりする。外からの視点を活かす方策として、外部オブザーバー制度のような形で、転勤や結婚で地域外からこちらにいらした方や、県外の方に一定期間滞在してもらうなどして、面白いものやよいところ、文化や歴史、地域に残る風景など、「気付き」を掘り起こすと面白いかなと思ったりもします。私は男性なので、女性の視点でよいところ、改善して欲しいところ、足りないところなどを指摘してもらう施策も、我々には見えにくい地域の利点やリスクやニーズを把握する上では有効だろうと思います。
今年の「上越オクトーバーフェスト」では、出店者は上越産の野菜を使うようにされたと伺いました。上越妙高地域の食料自給率というのも知りたいところですが、地元に有機農法などにも取り組む意欲的で顔の見える生産者がいて、米・野菜・魚・肉・味噌・醤油・酒などが手に入り、食の地産地消が実現できるというのは、地球規模で考えればとても豊かで自由な土地に住んでいるということで、すごく贅沢なことだと思います。そうした食の多様性が守られた土地に住んでいる幸せには、自覚的であったほうが良いだろうと思います。今後、食の分野でも経済効率ばかりが重視されるようになれば、小規模な生産者が淘汰されてしまう可能性も出てきます。手間をかけた高品質の食材や食の多様性は失われてしまうかもしれません。
自分たちの住む地域の強味を自ら捨ててしまわないためにも、地域のよいところを発見し共有し発信して次世代に伝えて行くことはとても重要な責務だと思います。
今日はありがとうございました。「上越オクトーバーフェスト」楽しみにしています。
以上
次回も、ご期待下さい